山羊の歌(一部)
- 中原中也
- 底本:「中原中也詩集」岩波文庫
- (平成二二年五月一二日(水) 午後四時四一分四秒 更新)
サーカス
幾時代かがありまして
茶色い戦争ありました
幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました
幾時代かがありまして
今夜此(こ)処(こ)での一(ひ)と殷(さ)盛(か)り
今夜此処での一と殷盛り
サーカス小屋は高い梁(はり)
そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ
頭倒(さか)さに手を垂れて
汚れ木綿の屋(や)蓋(ね)のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
それの近くの白い灯が
安(や)値(す)いリボンと息を吐き
観客様はみな鰯
咽(のん)喉(ど)が鳴ります牡(かき)蠣(が)殻(ら)と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
屋(やぐ)外(わい)は真ッ闇(くら) 闇(くら)の闇(くら)
夜は劫(こふ)々(こふ)と更けまする
落(らく)下(かが)傘(さ)奴(め)のノスタルヂアと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん