山羊の歌(一部)
- 中原中也
- 底本:「中原中也詩集」岩波文庫
- (平成二二年五月一二日(水) 午後四時二四分四一秒 更新)
春の日の夕暮
トタンがセンベイ食べて春の日の夕暮は穏かですアンダースローされた灰が蒼ざめて春の日の夕暮は静かです吁ああ! 案か山か子しはないか――あるまい馬嘶いななくか――嘶きもしまいただただ月の光のヌメランとするまゝに従順なのは 春の日の夕暮かポトホトと野の中に伽がら藍んは紅く荷馬車の車輪 油を失ひ私が歴史的現在に物を云へば嘲る嘲る 空と山とが瓦が一枚 はぐれましたこれから春の日の夕暮は無言ながら 前進します自みづからの 静脈管の中へです