山羊の歌(一部)
- 中原中也
- 底本:「中原中也詩集」岩波文庫
- (平成二二年五月一二日(水) 午後四時四八分六秒 更新)
少年時
黝あをぐろい石に夏の日が照りつけ、庭の地面が、朱色に睡つてゐた。地平の果に蒸気が立つて、世の亡ぶ、兆きざしのやうだつた。麦田には風が低く打ち、おぼろで、灰色だつた。 翔とびゆく雲の落とす影のやうに、田の面もを過ぎる、昔の巨人の姿――夏の日の午ひる過ぎ時刻誰彼の午ひる睡ねするとき、私は野原を走つて行つた……私は希望を唇に噛みつぶして私はギロギロする目で諦めてゐた……噫ああ、生きてゐた、私は生きてゐた!