並木の梢が深く息を吸つて、空は高く高く、それを見てゐた。日の照る砂地に落ちてゐた硝子(ガラス)を、歩み来た旅人は周章(あわ)てて見付けた。
山の端は、澄んで澄んで、金魚や娘の口の中を清くする。飛んでくるあの飛行機には、昨日私が昆虫の涙を塗つておいた。
風はリボンを空に送り、私は嘗(かつ)て陥落した海のことを その浪のことを語らうと思ふ。
騎兵聯隊や上肢の運動や、下級官吏の赤靴のことや、山沿ひの道を乗手(のりて)もなく行く自転車のことを語らうと思ふ。
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